2016年04月30日

【中学受験コラム】上位校が受験生に求める算数の力とは?

中学受験で最も意識される科目は「算数」かと思います。
特に上位校では、合格者と不合格者の点差が他の科目より大きく、合否への影響が大きいからでしょう。
今日は「上位校の算数で求められる力」を、今春の鴎友学園で出題された「食塩水の問題」を題材として分析してみたいと思います。

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【鴎友学園2016年度第2回入試 大問2】
同じ大きさの赤のカップが15個、青のカップが10個あります。
赤のカップには2%、青のカップには7%の食塩水が入っています。
25個すべてのカップには同じ量の食塩水が入っています。
この25個のカップから15個のカップを食塩水を容器Aに、10個のカップの食塩水を容器Bに入れたところ、容器AとBの食塩水の濃度が同じになりました。
容器Aには、赤のカップと青のカップからそれぞれ何個ずつ入れましたか。
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ずいぶんと複雑な問題設定ですね。
まず「問題文を素直にしっかりと読み、必要な情報を把握する」ことができるか、いきなり勝負の分かれ目です。
算数ではありますが、ここでは「国語の力」が問われています。
とりあえず、問題文に書いてあることをまとめてみましょう。

@ 赤のカップが15個、青のカップが10個あり、全て同じ量の食塩水が入っている。
A 赤のカップの食塩水は2%の濃さ、青のカップの食塩水は7%の濃さになっている。
B 容器Aには赤青あわせて15個のカップの食塩水を入れ、容器Bには赤青あわせて10個のカップの食塩水を入れた。
C Bのあとにできた容器AとBの食塩水の濃度は同じになった。

ここで、まずピンときてほしいのはCの内容。
実は、この設定は「食塩水の等量交換」という有名な問題と同じなのです。
例として、「中学受験新演習」の小6下から抜粋した問題を挙げます。

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容器Aには8%の食塩水が200g、容器Bには20%の食塩水が300g入っています。
いま、2つの容器から同じ重さの食塩水を同時に取り出し、Aから取り出したものはBに、Bから取り出したものはAに入れてよくかき混ぜたところ、2つの容器の食塩水の濃さは等しくなりました。
これについて、次の各問いに答えなさい。
(1) 2つの容器の食塩水の濃さは何%になりましたか。
(2) 2つの容器から取り出した食塩水の重さは何gですか。
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(1)は、8%の食塩水200gと20%の食塩水300gを混ぜて500gの食塩水を作り、それを200gと300gに分けたことになると気づけば、簡単に15.2%と求められます。
(2)は、例えば容器Aにおいて、(1)の答えを利用して計算すれば、120gと求めることが出来ます。
(1)の構造に気づけば、見た目ほど難しくない問題ですね。
上位校を目指す生徒であれば「常識」として知っておくべきパターン問題です。

鴎友の問題に戻りましょう。
まずは完成した食塩水の濃さから求めてみます。
ですが、ここである問題に直面しますね。
それは「混ぜた食塩水の具体的な重さがわかっていない」ということです。
このままでは「混ぜる」操作の計算ができませんから、問題が進みません。

とはいえ、与えられた条件から必ず何か解決の糸口が見つかるはずです。
ここで、多くの受験生は「過去に自分が解いてきた問題」をいろいろと思い返してみるのでしょう。
ですが、予習シリーズなどを含め、どの教材にも類題は出ていません。
この問題は、すべての受験生が試験本番で「はじめて見る問題」なのです。
さて、どうしたらいいのでしょう。
解いたことのない『難しい問題』だとあきらめてしまいますか?

実は、この部分こそ、合否を分ける分水嶺。
中学校の先生方は「見たことのない問題でも、あきらめず、論理的に粘り強く考える力のある生徒かどうか」を見極めようとしているのです。

よく条件を見てください。
@で、「全て同じ量の食塩水が入っている」と書いてありますよね。
つまり、「容器に入れた食塩水のカップの個数の比」が「混ぜた食塩水の重さの比」を表している、ということです。
例えば、赤を5個、青を3個入れたとすれば「5:3の重さの比で混ぜた」ということになります。
この問題では、赤のカップは15個、青のカップは10個ですから、全てを混ぜると「2%の食塩水と7%の食塩水を3:2の重さの比で混ぜた」ことになります。
ここまでくれば、簡単に「完成した容器AとBの食塩水の濃さ」を求められますね。
これで、問題を解く糸口が見つかりました。

別に濃さを求めて考えてもいいのですが、せっかくなのでもう少し深く考えてみましょう。
上の内容をよく考えれみると、容器Aでも2%の食塩水と7%の食塩水を3:2の重さの比で混ぜたということですよね。
・・・ということは、赤のカップと青のカップの個数の比が3:2である、ということになります。
つまり、容器Aに入れた15個のカップのうち、赤は15÷5×3=9個、青は15÷5×2=6個とわかります。
何と、濃さを求めずに簡単に解答を導けてしまいました。
どうでしょう、解説を見ると「何だ、こんな簡単な問題だったのか」と思いませんか?

実際の試験で、合格者はこの問題で 84% の得点率を記録したそうです。
何というか、合格するには「解けて当たり前の問題」というわけですね。
対して不合格者では、何と 36% の得点率になってしまったそうです。
合格者と不合格者の差は 48% となり、合否を分けた一問と言っていいでしょう。

鴎友の問題は、算数の学習法に関して重要な示唆を与えてくれます。

よく言われる「教科書の問題を繰り返し解いて身につける」パターン学習は、言うまでもなく基礎学力をつけるために必要です。
そして、桐光や大妻多摩など、学校によってはそのような学習で十分だと言える場合もあるのは確かです。
それは「真面目にコツコツやる生徒に入学してほしい」という、学校側からのメッセージでもあります。

ですが、鴎友や洗足、東京農大一、東京都市大付属など、最近人気の難関校では、さらに一段上の学力を求めてきています。
それは「与えられた情報を読み取り分析し、自分の知っている技術を応用して問題を解決する力」、一言で言えば「考える力」です。

問題を解いていて「わからない」と思ったら、すぐに解答を見たり、質問したりしていませんか?
そして「ああ、わかった」と思って、それで終わりにしていませんか?
それって、全く頭を使っていませんよね?
上位校の問題で「やったことのある問題は解けるのに、新しい問題は解けない」という生徒は、このような勉強をしていることが多いのです。
「新しい問題」ではないのです、考えれば解けるのに(きつい言い方ですが)考えるのが面倒くさくて避けているのです。

子どもたちは面倒くさいことを嫌いますし、簡単にぱっと解けるやり方を教えてもらえないかと期待しています。
私も、授業をしていると「何でもっと簡単なやり方を教えてくれないの?」と子どもたちが考えているな、と感じることが多々あります。

はっきり言いましょう。
上位校の先生方は、そのような生徒には入学してほしくないと思っています。
入ってから伸びる、しっかりと考えることが出来る生徒に入学してほしいのです。

鴎友の「食塩水の問題」は、考える力のある生徒を選抜できるまさに「良問」と言えます。
最近の上位校の問題は、このタイプの問題が多く出題され、ここで合否が分かれていることを強く実感しています。

では、日々の学習の中で、どのようなことを心がければいいのでしょうか。

まず、基礎学力となる「典型問題の解法」を、繰り返し学習して身につけましょう。
この学習において最上のテキストは、今使っているテキストの例題・基本問題と、授業の中でまとめたノートです。
何度もノートを見直し復習して、類題が出てきたら「こう考えるんだな」とすぐに浮かぶくらいに定着させられれば理想的です。

そして、テキストの練習問題や発展問題は、わからなくてもまず「考える」くせをつけましょう。
最低でも1問5〜10分は考えてほしいと思います。
また、ただ見つめるだけではなく、図を書いたり、書き出してみたりして、手を動かしながら考えてみましょう。
もちろん、それでも解けない問題はあります。
その時は、解答を、答えに至るまでの「流れ」を一つ一つ理解しながら熟読しましょう。
そして、再度問題に挑戦し、自分が問題の「考え方」を理解できているか、確認するようにしましょう。
重要なポイントは、「書写」ではなく「頭を使って理解する」ことを意識して勉強する、ということです。

質問も、すること自体は重要ですし、どんどん質問してほしいと思います。
ですが、質問の「内容」と、質問した「後」にどのような勉強をするかで、その効果は大きく変わってきます。
まず、質問する際には「質問する部分を明確にする」ようにすると、質問の効果が大きく高まります。
そして、質問した「後」にもう一度その問題を解き、理解できているかを確認しましょう。

長くなってしまいましたが、上位校を目指す皆さんの参考になれば幸いです。


posted by 登戸教室 曽良 at 17:23 | TrackBack(0) | 中学受験コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする